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聖堂

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「……ごめんね、能登ちゃん」
 蓮見先生が立ち止まり、私はその謝罪の意味を知った。
 私達は、聖堂の出入り口を前にしていた。球体の内側のように湾曲した壁には、船で見るような、角を丸めた扉が埋め込まれている。その扉の白色は、この乳色の空間が非日常であることを思い出させる、ありふれたペンキの色だった。
 蓮見先生を見ると、彼は私の顔を見つめていた。視線が交わって間もなく、眼鏡の奥の瞳が伏せられる。
「帰るの?」
 蓮見先生は小さく返事をして、私の肩をさすった。
「自分の臍帯網を見るのは……気持ちに負担がかかることかもしれないんだ。案内するのは、能登ちゃんがもう少し大人になってからでもいいかな」
 もう子供じゃない、と言おうとしたはずだった。
 肩に触れる柔らかな体温が、私の苛立ちを遮っていた。言葉にできなかった曖昧なものたちが、頭の奥でくすぶり始める。
「能登ちゃん、今日は帰りましょう。聖堂にあまり長くいると、体に良くないし……誕生祭はもう終わってるだろうから、大丈夫だよ」
 蓮見先生が扉を開ける。明るい廊下の光が、聖堂の中に差し込む。
 私の胸は、飽きるほど見知った陰鬱さに満たされた。